岡本太郎の作品には、主題となるモチーフと共に、全体が顔となるように構成されたダブル・イメージによる作品が、少なからずあります。岡本は、こうした表現方法を、第二次世界大戦前に、1930年から40年まで滞在したパリでの活動の中で修得したものと考えられます。
岡本はパリに滞在中、アンドレ・ブルトン、マックス・エルンスト、ヴァシリー・カンディンスキー、アンドレ・マッソン、サルバトール・ダリ、マン・レイ、ブラッサイなど、多くの芸術家と交流しました。1933年には、岡本は、ハンス・アルプやオーギュスト・エルバンらの紹介により、前衛芸術家のグループ「アプストラクシオン・クレアシオン」に、最年少の作家として参加しました。
アプストラクシオン・クレアシオンとは、1931年2月に、パリで抽象画家や彫刻家によって結成されたグループで、1930年代を代表する抽象芸術の運動体です。非具象芸術に対して広く門戸を開き組織も穏やかだったためか、メンバーの構成は国際性豊かで、数百名にのぼったと言われています。
アプストラクシオン・クレアシオンの作家たちの活動は、夢や非合理を標榜するシュルレアリスムに対抗し、科学や技術に基礎を置いて結成された抽象芸術グループとも、その両者を融合させようとしたグループとも理解されています。また、心理学的な影響を受けた作品が多かったこともあり、近年では「潜在的イメージ」を活用した芸術表現を探求したグループとして紹介されてもいます。
本展では「潜在的イメージ」をキーワードに、セザンヌ、ルドン、マン・レイらの作品とともに岡本太郎の作品に残存しつづけたパリの芸術思潮をご紹介致します。