ヴィクトリア・ジットマンの描くフランドル絵画のような、硬質で精緻な女性の横顔のポートレートには、しばしば描かれるネックレスがありました。あるとき彼女は、そのネックレスだけを描くことを思いつきます。これが後に、ビーズのポーチやネックレスなどを描くシリーズ「On Display」となります。
彼女は骨董市などで描くモチーフを選びますが、そこでは純粋にそれが美的に優れたものかということだけを考え、特に、白いビーズのポーチには20世紀美術の粋が見て取れるといいます。フラットな背景に緊張感をもって配置される、幾何学的な文様のビーズのポーチやネックレスは、ソル・ルウィットやアグネス・マーティンの連続性を想い起させます。ポーチの規則的な模様を整然と画面に配置することで、ジットマンはモダニスト特有の絵画の平面性を示唆し、また絵の表面とフォルム、平面性と描かれているもの、視覚性と質感などを探求しています。
作家は、まるでビーズ刺繍の行程を画面上で反復するかのように、ビーズ一粒一粒を描きますが、絵を描くのは朝から陽光があるうちに限られ、モチーフを描き終えたとき全体を包むやわらかい光は、モチーフが置かれている環境―光や風、湿度といった自然―をも感じさせます。
「On Display」のシリーズに併行して、ヴィクトリア・ジットマンはルネサンス絵画のポストカードなどを元に女性のポートレートを描くシリーズ「The Beauties」を続けています。この小さな作品のシリーズでは、編み込みの髪や、パールの首飾り、金襴の袖といった、オリジナルの作品でも執拗に描かれていた細部が、さらに緻密に、執拗に小さな画面に描かれることで、オリジナルに潜んでいたフェティシズムが露になります。作家の興味を誘ったのは、この上なく飾り立てた女性が、まるで陳列 (On Display) されるように額縁におさまる、という構造そのものです。ポーチとネックレスを描いた「On Display」のシリーズと同様、繊細なディテールがそれを目の前にした鑑賞者を惹き付けます。そうして生まれる絵画と鑑賞者との間の豊かな関係性が、彼女の作品の核となっています。
本展覧会では、「On Display」のシリーズから、ペインティングとドローイングを展示いたします。光をまとい、静謐な空気を醸す、ヴィクトリア・ジットマンの写実を、ぜひご覧下さい。