2003年にクエンカ(スペイン)で亡くなった岡野耕三さんの回顧展のお話はパートナーであった又木啓子さんから、随分と前からお話があった。又木さんとは海文堂時代からのお付き合いで、作品もパブリックアートの仕事も存知あげてギャラリーでの作品展示もさせていただきました。しかし岡野さんについては最近までよく存知あげないまま来てしまいました。そして作品集や東京での回顧展を拝見するうちに、岡野さんを「神が愛でし人」と確信するに到り、岡野耕三回顧展と又木啓子展をギャラリー島田で同時開催することになりました。
岡野さんは深い精神性を秘めた寡黙な人、又木さんが情熱的で行動の人。
「月」と「太陽」に喩えられるかもしれません。岡野さんのどこか閉じられていない渦を巻くような弧は満ち欠けする月のようで、植物や鳥などの無垢な魂の残影のようにも見え、彼方へと誘います。又木さんは、欠けることなく輝き続け、無限のエネルギーを放射する太陽のごとき色彩曼陀羅が此方の謳歌へと誘います。又木さんの代表的なパブリックアートはクエンカの「太陽の広場」です。広場全体が普遍の自然法則が伝える巨大な太陽時計を中心に、色彩モザイクで構成され、それは規模は小さいとはいえ、バルセロナのガウディーによるグエル公園を思わせます。1967年、まだほとんど東洋人が住んでいなかったクエンカで、魂の月光にような耀きで人々を魅了し、また陽光のような明るさで人々を抱擁した二人の純粋な魂。
一人は逝き、一人は生きる。"クエンカに生きて"は、そうした二人の物語なのです。
― 島田誠 (ギャラリー島田主宰)