ウィレム・デ・クーニング(Willem de Kooning, 1904-1997)は、アメリカで活動したオランダ出身の画家。ジャクソン・ポロックと並ぶ「アクション・ペインティング」の代表的画家で、第二次世界大戦後に開花した「抽象表現主義」を先導した画家のひとりとしてその名を知られます。その作品は、具象と抽象の狭間の表現と、激しい筆触を特色とします。
デ・クーニングは、1904年にオランダのロッテルダムに生まれました。青年時代は、ロッテルダムの商業美術と装飾業の会社で修行すると同時に、ロッテルダムの美術アカデミーの夜間部で学び、この頃モンドリアンらによる美術運動「デ・スティル」に触れました。1926年、22歳の時に渡米し、各地を転々とした後の翌年にニューヨークに定住。当初は商業美術で生計をたてていましたが、1929年にアルメニア出身の画家アーシル・ゴーキーと出会って多大な影響を受けた頃より半具象的な絵画を制作しはじめました。1950年代には、激しい筆触と強烈な色彩を特色とする女性像の連作を発表し、一躍脚光を浴び、これは画家を代表する主題となり、1960年代にはさらに多彩な女性像が制作されました。それらの絵画様式は、抽象表現主義以降のポップアートやネオ・ダダなどの世代にも影響を与えたとされています。その功績が認められて、1989年には第1回高松宮殿下記念世界文化賞の絵画部門を受賞しています。
デ・クーニングは、ポロック、マーク・ロスコらとともにアメリカの戦後抽象絵画を代表する画家ですが、日本においては、複数の作品が展示された機会は数えるほどしかなく、美術館で個展が開催されたことはありませんでした。しかし、2012年にニューヨーク近代美術館で大回顧展が開催されるなど、画家の再評価が世界的に進む中で、本邦においてもこの画家に注目すべき時機がきたと言えましょう。
本展の核を成すのは、デ・クーニングの有数のコレクションを誇る、アメリカ合衆国コロラド州を本拠地とするジョン・アンド・キミコ・パワーズ・コレクションからの油彩、水彩、素描作品27点です。デ・クーニングと親交のあったパワーズ夫妻が画家より直接入手した作品は、ほとんど一般には公開されておらず、1960年代の「女」を主題とする作品郡は、画家の本質を示す知られざるコレクションです。また、本展には、日本国内の美術館が所蔵する優れた絵画作品6点、さらにはかつてパワーズ夫妻が所蔵し、現在はニューヨーク近代美術館が所蔵するデ・クーニングの素描の代表作《女》(1965年)が出品されます。これまで日本でまとめて作品を見る機会のなかった、戦後アメリカを代表する画家の作品をご堪能ください。