戦後ニューヨークに渡り、1950―60年代の抽象表現主義の中で活躍した岡田謙三(1902-1982)は、1929年に目黒区自由が丘にアトリエを構え、そこを拠点として活動しました。「鷹番」という地名が物語るように、目黒はもともと将軍の鷹狩の場として知られた、市中から離れた農村地。その後、大正時代に開通した東京急行により新しい文化がもたらされ新興住宅地として発展した地域を有しています。特に、自由が丘には、その名前の由来にもなった「自由ヶ丘學園」が1920年代の後半に設立され、同時期にモダンダンスを広めた舞踊家石井漠による「舞踊詩研究所」が開設されるなど、次第にモダンな街が形成され、1930年以降になると画家や彫刻家、小説家など、新しい考え方を持つ文化人が多く移り住むようになりました。このころ岡田のアトリエには、今も近くにアトリエが残る古茂田守介、そして一時期目黒に住んでいた荻須高徳、海老原喜之助らがよく訪れていました。本展では、岡田と親交のあった自由が丘に居を構えていた作家を中心に、当館の所蔵作品の中から広く目黒界隈に住む作家たちを取り上げ、「目黒」という地域と作家達を巡る「文化縁」をさぐっていくものです。
さらに、同時に「秋岡芳夫全集 2―童画とこどもの世界展」を開催します。目黒を拠点として生涯一貫した考えによるデザイン運動を発信続けた秋岡芳夫(1920-1997)。昨年度に続く第2回目となる今回は、1953年に、金子至、河潤之介と立ち上げた工業デザイングループKAK以前、戦後すぐに活動した日本童画会時代に描いた作品と、終生持ち続けたこどもへの視線を、残された資料の中からご紹介します。目黒区のモダンな住人の一人でもある秋岡の、知られざる童画の色彩世界とこどもへの豊かなイメージによる作品もご覧ください。