島田誠 『奥田さん、木下さんのこと』
ピアニスト、中田実郎さんが1992年11月5日、54歳で亡くなられました。中田さんは、現代美術の優れたコレクターとしても知られ、命懸けで愛した奥田善巳さんの作品をコレクションしてきました。奥田さんはトアロード画廊で発表を続けてこられ、ギャラリー島田の奥田善巳作品は奥様の中田益子さんから託されたものです。2003年には80年代、90年代の作品を中心に、2004年にはドローイングを、2006年には「現世を高め、昇華して、天に近づいていくことを意図した」という韓国の作曲家、尹伊桑(Yu Isang)の曲に触発されながら奥田善巳さんと木下佳通代さんの90年代の作品を、2008年にはお二人の小品、パステル、デッサンを、というように視点を変えながら紹介してきました。
奥田さんは2009年の第2回神戸ビエンナーレにおける兵庫県立美術館「LINK―しなやかな逸脱」の招待作家として新作を発表、当ギャラリーでは2011年に「奥田善巳・木下佳通代展」を開催しましたが、その直後の3月22日に奥田さんは90才の生を終えられました。
現在、兵庫県立美術館で「美術の始まるところ―奥田善巳展」が開かれています。(3月9日まで) 大作を中心とした奥田さんの20点は美しくその魅力を伝えています。
それに呼応するように今回のギャラリー島田では二つのギャラリーを使って、「奥田善巳展」と「木下佳通代展」を開催いたします。お二人は、現代美術の先端的な動向を自覚的に自分の語法として捉え直し、1970年代には写真や版画やドーローイングを様々に試みながらお互いに影響をし合いながら1980年代からの豊穣な平面の時代へと厳しく、しかし緩やかに歩んでいきます。お二人の1970年代の紙の作品(写真、版画、ドローイング)を取り上げ、タブローについては木下さんは亡くなられる数年前に残された紙に油彩の作品を、奥田さんは1990年から2006年の作品を取上げ、その到達点を対比的にご覧いただく試みです。これまでとはまた別の側面から、お二人の魅力を引き出したいと願っています。