佐藤一郎退任記念展は、画家であると同時に、絵画材料、絵画技術の研究者でもある佐藤一郎の足跡を振り返る展覧会です。
1970年に東京藝術大学美術学部油画専攻を卒業した佐藤は、ドイツ学術交流会(DAAD)留学生として西ドイツ・ハンブルグ美術大学に留学、ルドルフ・ハウズナーの教えを受けました。留学直後に出会った技法書に感銘を受けた佐藤は、帰国後の1980年、それを翻訳し「マックス・デルナー:絵画技術体系」を出版します。翌年4月に油画技法材料研究室の常勤講師となった佐藤は、以来、34年の長きにわたり絵画技術・絵画材料の側面から学生への実技指導に当たってきました。教育活動と並行して絵画材料・絵画技術の調査研究も継続し、絵画初学者の入門書や技法書をはじめ、多くの著作を著しました。また、産学共同による油絵具「油一」の開発、地方公共団体との連携活動など、社会と美術との関わりにも強い熱意を持って取り組んできました。近年では、アフガニスタンのバーミヤーン仏教壁画、新疆ウイグル自治区のキジル仏教壁画に対する調査研究にも精力的に力を注いでいます。
こうした教育者・研究者としての側面を持つ佐藤は、画家としても数多くの作品を制作してきました。西洋絵画のコンテクストから、水性絵具と油性絵具の併用による混合技法の方法論を確立、実践した結果がその画面に現れています。
本展覧会では、幼少期から現在にいたるまでの画家・佐藤一郎の画業を追い、同時に教育者・研究者としての側面をも取り上げて会場を構成します。
画家を志した一人の人間がこれまでに歩んできた足跡を、一つの美術教育のあり方としてご高覧いただければ幸いです。