「僕らの観ている現実は、半分が脳で作り上げ、投影された個々の思い込みのイメージである」という考え方がある。その閃きは、もはやSF映画やドラマばかりのものではなく、物理学の世界にも及んでいるようだ。確かに物理学者は、抽象的にしか語られなかった謎の物質の存在を見出し、今では霊やUFO / UMAや怪現象に至るイメージを作り上げる人間の脳内宇宙の抽象性に着目している。僕らの脳内の「宙」に投影される曖昧なイメージは、物質化する可能性を抱いているというのだから驚きである。だとすると、毎年現れるウイルス、怪奇現象や惑星の発見に至るまでもが私たちの抽象的な概念の産物と考える事ができる。つまり、人類の総体としての無意識が自然を相手に仕掛けて現実を作り上げているという事になるのだ。なんだか狐につままれたかのようだ。
「抽象」とは一体何なのだろう?
―現代の美術において、そして思考と作法において大きな影響を及ぼした「抽象」という概念は、20世紀の終わりとともに過去の遺物になってしまったのだろうか。そもそも「抽象」とは、人がイメージを抱き、形にするとき、その時代の価値を超えて密やかに干渉してくる時を超えた無意識のパターンなのではないだろうか。僕の周囲の作家達はそれを受信し、編み上げ、静かに世界に向かって投影してきた。彼らは黙したまま現実を作り上げ、空間に押し戻し、我々にその一端を垣間見せてきたのだ。それはまるで、水たまりに見る光の波紋のようにも思え、僕は不意に弧を描くそれと無条件に戯れ、笑い、踊りたい気分に駆られてしまう。目を閉じる。すると、パッと新たな色彩が目前に広がり、永遠のパターンが現実に干渉してくる...それは、物理を超えてやってくるものなのだ。そして必ずしも、誰もが信じなくてもいい。
現代のリアリティを受容した作家それぞれが、個々の思い描く「宙」を「抽出」し、「大・中・小」というスケールで描く、そして、その場から多角的に、且つホログラフィックに投影される7日間があるならば、そこは必ず未知の感覚が揺らめき、常に波紋を広げて未来を生成する不可思議な舞台『ダイチュウ SHOW』になるはずだ。我々はその感覚に触れることができる。
(木村俊幸/DAI CHU SHOW展実行委員長・LOOPHOLE主宰・画家)
2会場同時開催
府中市美術館 1階 市民ギャラリー
ループホール (VFX studio LOOPHOLE)