美術作品がひとつの視覚的世界として立ち現れるとき、これを「目に見えるようにする」のは、実在する外光と、作品の内なる空間を満たす光――色彩と明暗によって構成されるイメージであるといえます。
西洋の遠近法と陰影法による写実表現を「真に迫る」技として驚嘆をもって学び入れた高橋由一、松岡壽らにはじまる明治期の日本近代洋画から、黒田清輝らが取り入れた外光派の柔らかな色彩、そして大正期の萬鉄五郎や岸田劉生が追及した鮮明な光。1930年代には、内田巌が静謐なリアリズムに時代の不安な空気を、阿部合成や三岸好太郎が具象表現にシュールレアルな感覚を帯びさせる一方で、谷中安規や藤牧義夫が木版画で「輝く闇」とも形容すべき幻想的な世界を描き出すなど、技法の成熟と時代の諸相を反映した多様な「リアル」のかたちが展開しました。
さらに、カンヴァス全体を、光をめぐるイメージの実験場とした戦後の抽象表現主義から、空間そのものを作品とする現代美術の内藤礼まで、「光の現れ」に焦点を当てて当館のコレクション約80点を紹介し、近現代美術にみられる多様な現実感のありかたを考えます。