この度、東京画廊+BTAPでは11月2日から11月30日にかけて、北川宏人の個展『Artificial World II: 浮遊する実体』を開催致します。東京画廊+BTAPで二回目の個展となる本展では、釉薬を使用することで日本の伝統芸術の文脈を汲みながら、円盤というユニークなフォルムを通じて彫刻の新たな可能性を探る北川宏人の最新の表現を紹介します。
北川宏人は1967年、滋賀県生まれ。1989年に金沢美術工芸大学を卒業後、マリノ・マリーニなどの当時のイタリア具象彫刻家に憧れ単身で渡伊。アカデミア美術学院ミラノ校とカラーラ校で学び、テラコッタの古典的彫刻技法を習得します。帰国後は一貫してテラコッタを使用した彫刻を制作し国内外の美術館とギャラリーで作品を発表。近年では金沢21世紀美術館のコレクション展に出展するなど原始素材である土の素材感にアクリル絵具で生彩を与え、現代に生きる人間像を表現しています。
これまでの<ニュータイプ>から<ポスト・ニュータイプ>シリーズへ展開する過程で北川が具象彫刻を通じて開拓したのは、日本社会の不安定さに苦悩しながらも、複雑な時代に順応し新しい感覚と知性を獲得する今日の若者の姿です。しかし、本展ではこれまでの人物モデルとは異なり円盤という彫刻としてはユニークな対象をモチーフとしています。その理由として北川は、「古代の壁画や宗教絵画にもそれらしき姿を表す円盤は文明の起源や人間の未来に深く関わっているかもしれない。その時間的スケールと他を超越した未知のテクノロジーは、現代の我々日本人が挑まなければならない問題を内包している」と述べます。また円盤が象徴する浮揚性を通じて、彫刻に内在する重力という制約をより明確に提示することは、彫刻の新たな展開を予見します。
円盤の作品に並んで展示される≪浮遊する人体≫をテーマとする作品では反重力性に焦点を当てつつ、新たな人間像の造形にも試みています。ボックスのなかでライトを浴び、浮遊する釉薬を帯びた人体は、毅然と大地に佇んでいたこれまでの作品とは異なります。この浮遊する彫刻は安定性に欠く現代人の心象イメージであり、新しい秩序とバランスを求め変動する現代の世界情勢をアイロニカルに表象しているのではないでしょうか。
古代より神話や宗教を題材としてきた彫刻の歴史は、同時に絶えず変化する人間の情態と人間の本質を問う哲学的思考を反映してきました。現代社会に生きる日本人のイメージを三次元に描き続ける作家の新しい表現を、この機会にご高覧ください。