芸術は古来、自然への崇拝や神仏への祈りなど、信仰や宗教と密接に結びついてきました。絶対的な宗教心が薄れる一方で狂信的な形で表れもする現代では、かつて描かれた「聖なるもの」は、一般の人々にとって信じられる対象としてのリアリティーを失いつつあるのかも知れません。この時代に、わたしたちが神秘や崇高を感じ、儚く、得がたいけれども、心から求めてやまないものとはどんなものでしょうか。
本展の序章では、従来描かれてきた聖なるもののイメージを紹介します。第1章「うつろいの中のかがやき」では、変転しうつろいゆく自然の“瞬間”に尊さを見出し表したといえる作品を展示します。第2章「痛みのありか」では、求めても救いの得られることはない人間の深い苦悩や悲しみを正視し造形化した作品を提示します。第3章「ひそやかな対面」では、机の上に私的な物が祭壇のように並べられ描かれた静物画や、自分自身を映すような存在に対面することで逆に強く迫ってくる永遠の時間を感じさせる作品をとりあげます。