再現描写の美から作家の表現性が重視される時代に
幕末から明治という価値観が大きく変化する激動の時代、失われていくものを描きとめたいという強い想いから、西洋の再現描写が重視されました。明治中期になっても、一般的に視覚的再現を美の第一基準とする認識は根強く、作家は再現描写と表現性の両立に努めることになります。
明治三十年代後半、人間の感性や想像力の優越を主張する浪漫主義的傾向が大きな転機となり、美術は作家の創造による虚構の表出であると定義されます。大正時代には、個々の作家の自由な見方と表現が尊重されるようになり、多様な表現方法から作家が選択し制作され、鑑賞者もそれを理解し作品と向き合う環境が整いました。大正後半から昭和初期、多くの作家が渡欧し新しい知識と技術を学ぶことで、洋画は成熟期を迎えます。以後、戦争や不況など世界的に不安定な中で時勢と向き合いながら、新しい時代を切り拓く表現が次々と生まれてきました。
本展では、大正から昭和初期に活躍した岡田三郎助や村山槐多、椿貞雄などの小品油彩画を中心に、黒田清輝の素描、林武のパステル画、北川民次の水彩画などを交えてご紹介します。また、併せて当館の版画コレクションより戦後の前衛美術家のリトグラフ作品、小野幸吉などの郷土作家の油彩画もご鑑賞ください。