平成25年10月10日、日本近代陶芸の巨匠・板谷波山(1872-1963)は没後50年を迎えます。
板谷波山は、明治5年茨城県真壁郡下館町 (現・筑西市) に生まれ、開校まもない東京美術学校で木彫を学びました。本格的に陶磁の研究を始めたのは、教師として赴任した石川県工業学校でのことです。波山はここで最新の釉薬技術と西洋のアール・ヌーヴォー図案から多くを学びました。
明治36年、陶芸家として独立することを決心して上京。東京田端に築窯し、郷里の筑波山に因んで「波山」と号しました。
波山は、自らの作品に一つの傷も許さない厳しい制作態度で知られています。陶磁という分野が「産業」から「芸術」へと枝分かれしていく過渡期にあって、自らの芸術のために、自作を割ることも辞さない姿は、「芸術としてのやきもの」、それまでにない新しい「陶芸家」の登場を印象づけるものでした。波山はその卓越した彫りの技と、釉下彩のグラデーションによる豊かな色彩表現によって独自の作風を築き、昭和9年に帝室技芸員に任命、同28年には陶芸家として初の文化勲章を受章するなど、近代陶磁史に大きな足跡を残しています。
波山は91年という長い生涯の中で、様々に作風を変化させました。西洋への憧憬が反映された初期のアール・ヌーヴォー、染織や漆工などの古典意匠研究、中国官窯スタイルへの挑戦など、波山の関心の変遷は、彼が生きた時代の姿をそのままに描き出してくれます。
本展は波山の没後50年を記念し、新出の作品・資料など近年の研究成果をふまえ、代表作約160点と資料約50件によって波山芸術の全貌を紹介するものです。同時代を生きた芸術家や収集家、郷里や学校など、波山が出会った人やものが、どのようにその芸術に関わったかを改めて検証する機会となれば幸いです。