タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムは9月27日(金)から10月26日(土)まで、鈴木清個展「流れの歌、夢の走り」を開催いたします。タカ・イシイギャラリーでの最初の個展となる本展では、1972年刊行の処女写真集『流れの歌』、そして1988年に刊行された『夢の走り』(第1回写真の会賞受賞)に掲載された作品のなかから、ヴィンテージプリント24点を展示いたします。
鈴木清(1943年-2000年)は、常磐炭鉱があった福島県好間村(現いわき市)に生まれました。定時高校を卒業後、漫画家を目指して上京しますが、土門拳の『筑豊のこどもたち』の影響で写真家になることを志し、1969年まで東京綜合写真専門学校で学びます。翌年、故郷の炭鉱などを撮影した「シリーズ・炭鉱の町」(『カメラ毎日』連載)でデビューし、1972年には最初の作品集『流れの歌』を自費出版で刊行、以後看板描きを生業としながら写真家としての活動を続けます。1976年に『ブラーマンの光』、1982年に『天幕の街』(第33回日本写真協会新人賞受賞)、1994年に『修羅の園』(1995年、第14回土門拳賞受賞)、1998年に『デュラスの領土』などの写真集を刊行、ほぼすべての写真集は写真家みずからが制作した自費出版でした。装丁までも手がけたその独自で自由な写真集作りからは、いずれも愛読書の一節をインスピレーションの手掛かりに世界観を拡げ、「書物」を愛し、それに生涯を捧げた写真家の姿を知ることができます。
「至福の島々。最後にもう一度言葉遊び的な想像力をめぐらすならば、鈴木清の写真集とは、一群の島々のようなものではないだろうか。海面に浮かぶ島は、遠目にはくっきりとした姿を見せているが、近づいてみれば、その輪郭としての波打ち際は、絶え間なくかたちを変えている。ちょうど鈴木の写真集が、一つの書物のかたちをとりながら、同時にそれがかりそめの集合体であることを示唆しているように。鈴木の写真集どうしはこれまで見てきたように、さまざまな回路を通じて響きあい、つながりあっている。島どうしもまた海底の地形によって互いにつながっているかもしれないし、あるいは意外に深い海溝によって隔てられた『孤島』があるのかもしれない。島々を取りかこむ海。水際という場もまた鈴木の偏愛した対象の一つであったことを思い起こそう。鈴木清の写真集のページをめくることは、そうした島々への旅の始まりなのである。」
(「写真集への旅」、『百の階梯、千の来歴』、増田玲、東京国立近代美術館、2010年より引用)
鈴木清の写真は、現代オランダの重要な写真家のひとりマヒル・ボットマンによって見出され、2008年に彼が企画した「Kiyoshi Suzuki Soul and Soul 1969-1999」展(ノーデルリヒト・フォトギャラリー、フローニンゲン、オランダ:2008-2009年にダイヒトルハーレン、ハンブルクに巡回)によって注目されました。その後、初の本格的な回顧展「鈴木清写真展 百の階梯、千の来歴」(2010年、東京国立近代美術館)が開催され、白水社より『流れの歌』(2010年)が復刊されました。本展におきましては、写真集『流れの歌、夢の走り』を刊行いたします。夢や記憶、旅や文学などをモチーフに、緻密で重層的な世界を織り成す鈴木清の作品を是非この機会にご高覧ください。