わたしは憎むものを描く。
わたしは愛するものを描く。
ベン・シャーン (1898-1969) は、1930年代から60年代にかけてアメリ力で活躍した画家です。帝政ロシア領 (現リトアニア) のユダヤ人家庭に生まれたシャーンは、8歳の時に家族とともにニューヨークへ移住、貧しい生活のなか石版画工房で働きながら美術を学びました。そこで習得した線と文字による表現は、画家であると同時にグラフィック・デザイナーでもあった彼の原点となりました。独特の震えるような線で人聞の悲哀を物語るシャーンの芸術は、若き頃のアンディ・ウォーホルや、戦後の日本の画家、グラフィック・デザイナーにも大きな影響を与えています。
そして作品に通底する、対象に寄り添うような鋭くもやさしい眼差し。それは旧約聖書の神秘性が息づく東欧文化、ユダヤ人に対する迫害、移民の労働者であふれるニューヨーク下町での生活体験から生まれたものです。シャーンは、世界恐慌から冷戦時代へといたるアメリ力社会の実相を一市民の目で捉え、常に人聞の尊厳を問いつづけました。とりわけ1954年の水爆実験による被災船・第五福竜丸を扱った「ラッキードラゴン」シリーズは、3.11以降の私たちに科学文明について再考を促しています。
本展では「丸沼芸術の森」コレクションから、絵画・ドローイング・ポスターなど初公開の作品を含め約300点によってベン・シャーンの全貌を紹介します。慈愛にみちた作品をご堪能ください。