石垣栄太郎 (いしがき・えいたろう/1893~1958) の生誕120年を記念した展覧会を開催します。
和歌山県からは、紀南地方を中心に多くの人々が移民としてアメリカへ渡りました。そのなかには石垣栄太郎をはじめ、浜地清松 (1885-1947) やヘンリー杉本 (1901-1990) など、アメリカで画家として活躍した人物がいます。戦前における美術の中心はヨーロッパ、とりわけパリであり、日本の近代美術史も彼の地に渡って美術を学び、帰朝した作家がその中心として記述されます。もちろんそれは重要な歴史ですが、当館は、アメリカという場所で活動した作家たちの足跡も、日本の近代におけるもうひとつの美術の歴史として残すべく、調査研究やコレクション、展示活動を継続しておこなっています。
多くの渡米画家にとって、アメリカに渡った目的はまず生活のためであり、絵を学ぶことではありませんでした。現在の和歌山県東牟婁郡太地町に生まれた石垣栄太郎も、1909(明治42)年、15歳の時に新宮中学を中退し、出稼ぎのためアメリカに渡っています。数々の職を転々としながら、カリフォルニア州立大学美術学校や、ニューヨークのアート・スチューデンツ・リーグなどに学び、画家としての活動を始めました。片山潜と出会い、ロシア革命と前後して社会主義の運動に目覚め、1920年代には当時の生活・風俗などを描くソシアル・シーンの画家として認められるようになります。大恐慌後の1930年代からは、失業、人種差別といったアメリカの抱える問題をテーマに制作し、メキシコ壁画運動の影響も受けながら、より大きな画面へと作品は展開しました。日中戦争や太平洋戦争が勃発してからは、反戦や反ファシズムを訴える作品を数多く手がけています。
この展覧会では、激動の時代をアメリカという場所で生きた、石垣の足跡をご紹介します。また、太地町立石垣記念館の協力を得て、若き石垣に大きな影響をあたえた女性彫刻家ガートルード・ボイルの作品など新出資料も公開します。
1997年に当館で開催した「アメリカの中の日本 石垣栄太郎と戦前の渡米画家たち」展以来、16年ぶりの回顧展になります。ぜひご覧下さい。