本展では、17世紀スペイン絵画の巨匠、ディエゴ・ベラスケスの名画「ラス・メニーナス」をテーマにした写真作品を17点展示する予定です。「ラス・メニーナス」は、通常絵画の外にいる画家が絵の中に登場し、画家・モデル・鑑賞者の立場と視線が行き交う、複雑な構図により成り立っています。この絵はどんな目的で描かれたのか、絵の中のキャンバスに描かれている対象は誰だったのかなど、多くの謎を持つ作品で、これまでにさまざまな解釈がなされてきました。
森村は1990年に「美術史の娘」のシリーズで、ベラスケスが描いたマルガリータ王女をもとにした作品を制作しました。いつかは「ラス・メニーナス」についての作品を制作したいと、そのときから考えていた森村は、「ラス・メニーナス」を再現するだけではなく、この絵画をもとに森村が新たな物語をつくり、“全8幕の一人芝居”として表現します。作品の背景となる美術館の部屋は、今年2月にマドリッドのプラド美術館で撮影してきました。登場人物の撮影は、6月末から7月初めに森村が客員教授を務める京都市立芸術大学で、特別授業として学生たちに公開制作するというかたちで行われました。
本展では、物語の場面となる写真作品と、登場人物の肖像写真など、総数17点を展示する予定です。これまで森村は絵画や写真のフレームの中を意識して作品をつくってきましたが、今回は登場人物がフレームの外の美術館に現れるというダイナミックな展開が繰り広げられます。また、扮装していない森村自身が初めて作品に登場します。
西洋絵画を代表する作品に独自の解釈と想像力が加わった、謎めいていてスリリングな森村泰昌の美の世界をお楽しみください。