当館が建つこの場所には、かつて洋画家・宮本三郎 (1905-1974) のアトリエ兼住居がありました。友人の建築家・岡田哲郎が設計した、鉄筋2階建てのモダンな建築。宮本三郎にとってその家は、創造の現場であった一方で、家族との大切な時間をすごす、憩いの場でもありました。周囲からも、大変仲がいいと評判だった宮本一家。このたびの展覧会では、宮本三郎にとっての「Home, Sweet Home」(楽しい我が家) に思いを馳せて、作品をご紹介いたします。
宮本三郎が完成した新居に移り住んだのは、1935年7月のこと。1928年3月に結婚し、翌年長女をさずかった宮本三郎は、ヨーロッパ遊学や石川県小松市に疎開した一時期をのぞき、亡くなるまでその家に家族とともに住み、アトリエで制作を重ねました。制作と生活の空間はわかれながらも、それらはときにゆるやかにまざり合い、宮本三郎は夫人や愛娘をモデルにした作品を描いています。戦前、ルーヴル美術館で模写したレンブラントの《聖家族》や、戦時中から構想された《死の家族》、戦後初孫の誕生をきっかけに制作された油彩画のための素描等をご覧いただければ、宮本三郎が家族という主題にいかに関心を寄せていたかがわかります。そこには宮本三郎の、日々家族との生活の中で深まるまなざしの投影があるようです。
本展では、宮本三郎が家族を描いた作品、そして仕事に疲れると近所の生花店をめぐり、買い入れていたという花をモチーフとした作品を展示することで、宮本三郎の「家」から思い起こされるさまざまなイメージを展観します。加えて、宮本三郎旧邸に関する資料もパネルや書籍でご紹介いたします。