イタリア中部の古都シエナ。
700年来変わらぬ姿を保ち、中世の息吹をそのままに伝える街並みとそれをとりかこむ緑豊かな自然は、そのあまりの景観の美しさゆえに、訪れる人々を魅了し続けてきました。1995年、この都市がユネスコの世界遺産に登録されたことは、まだ、われわれの記憶に新しいところです。
とはいえ、なんといってもその名を知らしめてきたものといえば、フィレンツェとともにルネサンス文化の黎明を予告した14世紀シエナの芸術文化、とりわけ鮮やかな色彩と流麗な描線で私たちを惹きつけてやまないシエナ絵画であるといえるでしょう。
なかでも、シエナの守護聖人である聖母マリアが優美に描かれた絵画は、繊細華麗な装飾趣味と人間的情愛に満ちた表現を兼ね備え、これに続くイタリア美術そしてヨーロッパ美術に大きな影響を及ぼしました。華麗な装飾性のなかに清楚な情緒性を湛えるシエナ派の繊細な造形表現は、フィレンツェ派の合理的な造型感覚とはしばしば対比されながら、優雅で気品にあふれた芸術として賞賛されてきたのです。
本展では、こうしたシエナ派の流れをくむ14~19世紀の絵画をはじめ、彫刻・陶器などシエナ美術の精華を、世界的に名高いキージ音楽財団およびモンテ デイ パスキ ディ シエナ銀行の秘蔵コレクションによる約100点で紹介いたします。