安曇野髙橋節郎記念美術館は、髙橋節郎 (1914-2007) の生家の敷地に2003(平成15)年6月に開館し、本年開館10周年を迎えました。漆芸の分野から、型に縛られない自由な表現方法を見出し、現代的な芸術作品を制作し続けた髙橋節郎の人とその作品世界を顕彰するため、当館は年1回の企画展と年3~4回の常設展示を開催してきました。
髙橋節郎の漆芸術には、伝統工芸の漆芸の形式にとらわれない独自の世界が表現されています。星空から想起された動物、少年時代に親しんだ安曇野の山々や遺物が、画面となる漆黒のパネルに金や貝を用いた漆芸の技法で大胆に描かれます。ここにはシュルレアリスムの影響が如実に現れています。
ヨーロッパで1920年代に誕生したシュルレアリスムの運動は、文学からやがて美術表現の大きな潮流へと拡大し、今なお世界中で愛される芸術家を多く輩出しました。ミロ、エルンスト、マン・レイといった芸術家たちの作品が日本に紹介され、日本人画家が、その影響の下に不思議な画風の絵画を発表するのが1929(昭和4)年、髙橋節郎が芸術家を志し、東京美術学校 (現 東京藝術大学) へ入学したのは1933(昭和8)年ですので、まさに多感な青年時代をシュルレアリスムの流行とともに過ごすこととなります。画家となることを夢見た髙橋節郎は、とりわけ日本のシュルレアリスト古賀春江 (1895-1933) の作品に憧れ、作家のアトリエを訪ねるほど入れ込んでいます。
終戦を迎え、自由な表現が許される時代となると、髙橋節郎はこれらのシュルレアリスムの作品を髣髴させる実験的な作品を多く手がけるようになります。漆芸の方法を駆使するとともに、作品の中に故郷安曇野をモチーフとした幻想的なイメージを繰り広げるのに最適な表現方法として用いています。
今展では、日本の芸術界に大きな影響を与えたシュルレアリスムの作家の作品とともに、髙橋節郎の作品を紹介します。