爛漫の春に咲き誇る桜花、野分の風に揺れる秋草など、四季のうつろいに折りおりの表情をみせる草花は、日本人の感性と深く結びついて、古くから日本の絵画の主要な画題として、数々の優れた作品を生み出してきました。桃山時代以降の近世においても、狩野派が大画面に装飾性豊かな形式美を発揮したのをはじめ、土佐派や住吉派は濃彩の精密巧緻な画風でこれを描き、また宗達以下、光琳や抱一、其一に至る琳派の画家たちは、鋭い自然への観照眼に裏打ちされた卓抜な構図と、華麗な色彩でこの世界を表現しました。今回はそうした草花を題材とした近世屏風絵を選んで展観し、われわれが育んできた自然や草花への美意識に触れます。
濃絵(だみえ)の技法を駆使した「吉野龍田図」はじめ、金地濃彩の画面に狩野派の伝統が息づく「桜下麝香猫図(じゃこうねこず)」、宗達工房が生み出したいくつかの「伊年草花図」や光琳の「夏草図」、京画壇で光琳と双璧をなした応挙写生画の名品「藤花図」、さらに琳派の掉尾をかざって、其一の強烈な個性の光る「夏秋山水図」など、様式、手法を違えながらも麗しく競い合う、草花の世界をお楽しみ下さい。