19世紀以来推し進められてきた「モダニズム」は、作品から神話・宗教・物語・再現性といった作品に固有でない要素を次々と削ぎ落としていきました。そして、1970年代には作品の構成要素をごく単純な形と色に限定する「ミニマル・アート」、また作品にとって大切なのは概念であり形や色さえも不要とみなす「コンセプチュアル・アート」に到達し、これ以上何もすることがないというある種の袋小路状態におちいります。
このような状況のなかから、80年代以降には、「無」から何かを生み出すのではなく、既にあるものを「引用」し、そこに何らかの操作を加えて作品として提示しようとする動向が現れてきました。そうした動向の担い手たちは、過去の美術作品や身の回りの事物をあたかも巨大なデータベースのようなものとみなし、その中から選び出したイメージを組み合せたり、独自に加工したりして、自らの作品とするのです。
本展では、このような「引用」の手法を用いて制作された80世紀以降の日本人作家4人の作品13点をご紹介します。福田美蘭はダ・ヴィンチやマネの名画の登場人物が見ている光景を想像して描き出すなど、過去の美術作品に様々な仕掛けを施します。森村泰昌も同じく名画をモチーフとしますが、自らが名画の登場人物に扮装しそれを写真に撮るという制作方法を一貫して追及しています。やなぎみわはコンピューターの画像処理を駆使してエレベーターガールを普段とは異なる状況のもとで商業空間の中に配置し、ミステリアスな光景を作り出します。柳幸典は東京の地下鉄の路線図を独自の手法で提示することで、東京という都市の姿を浮き彫りにします。鑑賞者を豊かなイマジネーションの世界へと誘い、さらにはオリジナルと新鮮な感覚で向かい合うことをも可能にしてくれるこれらの作品をぜひお楽しみください。