ソニア・ドローネの魅力は、円と色彩により紡ぎ出される、その無限とも言える多彩なヴァリエーションにあります。まるで音楽を奏でるかのように、時にはリズミカルに、あるいはダイナミックに、自在に姿を変える円と鮮やかな色彩は、手をつなぎ変えながらさまざまな姿を見せてくれます。
ロシア帝政末期、ウクライナの寒村に生まれたソニア・テレク(1885~1979)は、ドイツで本格的に絵画を学んだ後に、20歳でパリに留学、以後70年以上にわたってパリを拠点に作家活動を展開しました。当初はゴッホやゴーギャンなどの影響を受けつつフォーヴ的な作品を描いていましたが、1910年にロベール・ドローネと結婚した頃から、夫とともに鮮やかな色彩とリズム感のある形態を特色とする新しいキュビズム(オルフィスム)を追求する中で独自の純粋絵画を生みだし、その後の抽象芸術にも決定的な影響を及ぼすことになったのです。
その一方で、舞台衣装、テキスタイル、室内装飾、家具、本の装丁、服飾などデザインの分野でも恵まれた才能を発揮しました。ドローネの芸術を見る上で、この半世紀以上にわたるデザイナーとしての活躍も見逃すことはできません。本展では、初期から晩年にいたる各時代の絵画作品を網羅するとともに、多彩なデザインの作品も併せて紹介します。アートとデザインをつなぐ架け橋としての役割を果たしたソニア・ドローネの芸術。日本で初めての本格的な回顧展となります。