夢や幻想、時と共に浄化された記憶の断片。
それらのイメージを再構築した私の作品は、内的なリアリズムであり私の分身でもあります。
北澤茂夫
公益財団法人常陽藝文センターでは郷土作家展シリーズ第228回として、「内なる世界を見つめる 北澤茂夫展」を開催いたします。
洋画家・北澤茂夫さんは昭和31年龍ヶ崎市に生まれました。高校生の頃から油絵を描くようになり、筑波大学芸術専門学群からさらに大学院へと進みました。在学中の昭和56年二紀展に初入選、昭和58年大学院修了後から平成18年3月までいわき短期大学にて、同年4月より横浜美術大学で教鞭をとりながら、二紀展に出品し今日まで独自の幻想的な世界を描き続けています。
北澤さんは、少年の頃に長く入院していた時期がありました。この経験をきっかけに絵画や文学、映画などの芸術分野に浸り、子供ながら生や死についても思いを馳せ、現実よりも空想世界に親しみを持つようになります。自身が描くことの意義を考えた時に、夢や幻想など内なる世界の風景を描くことはごく自然なことでした。
北澤さんの描く、堅固な構築物が岩の様にそびえ立ち、差し込む光に照らされて輝く非現実的な世界。この風景は、かつて見た夢や記憶の断片が蓄積され熟成し表れてくる幻想を、平面上に再構築したものです。
その輝きを表現するために北澤さんは油彩絵具とテンペラを併用します。テンペラの技法は学生時代から独学で試行錯誤していましたが、絵具を調合するところから始まるテンペラ画は時間がかかることもあり、いつしか遠のいてしまいます。しかし平成12年に文化庁派遣芸術家在外研修員として一年間フランスに赴く機会を得て、パリの国立高等美術学校にてテンペラを本格的に研究しました。テンペラは油彩絵具よりも発色が良く硬質な画面を生み出し、より鋭利な印象に仕上げられます。また油彩絵具と併用することで絵具自体が輝くような色彩を放つため、細密なタッチで光輝く風景の表現を目指す北澤さんの目的に合致していました。北澤さんの描く光が構築物を照らす様は、荘厳な寺院や教会、祈りを捧げる神聖な場所に似て独特の神々しさを感じさせます。
今展では北澤さんの優品のうち、第1会場の藝文ギャラリーにて前期に初期から平成11年までの油彩画作品を8点、後期に平成15年以降にテンペラを併用した作品8点、二期に分けて展示いたします。そのほか、第2会場の藝文プラザにて大作を10点展示いたします。またロビーにて北澤さんの作品制作の様子やインタビューなどを収録したビデオを放映いたします。
公益財団法人常陽藝文センター
テンペラ…顔料を主に卵などの媒剤と練り合わせるヨーロッパの古典的な絵画技法。水性、油性とも併用できる応用の広さと堅牢な画面が特長。