1950(昭和25)年に施行された文化財保護法は、建造物や絵画、工芸品などの目に見える有形の「物」(有形文化財)だけでなく、工芸技術や芸能など、特定の個人や団体が伝承し体得している目に見えない無形の「技」を「無形文化財」と定義し、その保存と活用を図ることとしました。それは世界に類のない画期的な制度であるとともに、今日では多くの国々がその存在意義を評価しています。
その後、1954(昭和29)年に「文化財保護法」が改正されると、無形文化財の中で重要な「技」を重要無形文化財として指定し、その「技」を高度に体得している人を重要無形文化財の「保持者」(人間国宝)として認定する制度が確立され、芸術上、歴史上とくに価値の高い伝統工芸の技の存在が、作品を通して具体的に示されることになりました。
そして同じ年に第1回展が開催された日本伝統工芸展は、こうした伝統技術に基づく優れた工芸作品によって、伝統工芸の素晴らしさを人々に伝え、それと同時に、伝統工芸を志す多くの優れた作家を輩出するという、大きな役割を果たしてきたといえましょう。
今日、先達たちの努力によって独自の発展を遂げた日本の「工芸」は、Craftではなく「KŌGEI」として、そのクオリティーの高さが評価され、まさに世界に発信するチャンスを得ようとしています。そこで今秋、日本伝統工芸展が60回目を迎えたのに因んで、伝統工芸の「今」を概観し、そして「未来」を見据えてみたいと考えます。重要無形文化財の指定・認定の制度のねらいは、「技」の保存と活用を図り、後世に伝えることにありますが、保持者を含めた工芸家は、「技」の伝承だけでなく、個人の美意識にもとづく作品を創造することで、新たな伝統を築き上げようとしています。本展ではそうした意志を、新たな発想と深い思考を見せる現役作家97名の代表作で紹介します。