坂本一成(1943年~)は八王子出身、日本を代表する建築家の一人です。氏は東京工業大学および大学院で篠原一男に建築を学び、その後武蔵野美術大学で助教授、東京工業大学で助教授、教授として後進の指導にあたりながら、住宅を中心に作品を発表してきたプロフェッサーアーキテクトとして有名です。東京工業大学坂本一成研究室からは現在、建築界においてその活躍がめざましいみかんぐみの曽我部昌史、アトリエ・ワンの塚本由晴や西沢大良などを輩出し、その師としても坂本の名は知られます。
氏の作品を読み解く上で特に触れておきたいのは、氏の「建築を自由にする」姿勢です。この姿勢は設計上の物理的制約からの自由を単に指すだけではなく、社会や生活の中にある建築や住宅の既存の有り様からの自由をも示します。例えば、私たちにとって馴染みのある住宅の間取り、いわゆるnLDK(リビング・ダイニング・キッチン)タイプは氏の住宅で使われることはありません。代わりに、例えば《代田の町家》(1976年)に顕著に見られるように中心となる部屋を主室、そして室と室をつなぐ間室、中庭は外室といったように部屋を場所との関係の中で位置づける間取りとしています。これは生活様式の内容まで含むいわば用途を前提とした室名が住宅の構成を不自由なものにしていると氏が考えるからに他なりません。この事例のように「建築を自由にする」姿勢は今日まで一貫する氏の重要な作品の特徴といえるでしょう。
展示では、1969年から2011年の間に氏が設計した作品のうち《水無瀬の町家》(1970年)、《House F》(1988年・日本建築学会賞作品賞)、《コモンシティ星田》(1991-92年・村野藤吾賞)、《House SA》(1999年)など20件を、模型とまるでその場にいるかのような巨大建築写真タペストリーで紹介。加えて現在計画中の住宅《Project AO》も1/3サイズの模型で初公開します。本展では氏の作品を通じて、私たちが普段あまり意識せずに住む住宅のあり方について改めて考えます。