久保健史の石(トラバーチン)は静謐な光を湛えている。その石は湧泉中に溶けていた石灰分が沈殿して形成されたものであり、久保の鑿跡は石への偏愛の痕跡であり、穿たれた空洞は、風も光も薫りすら石に抱かれやすらぐ。石である重量は消され、雪であったり雲であったり、水であったりするのは、その石の遥かなる生成の時の記憶が呼び醒まされているのかもしれない。その作品が愛おしさを誘うのは、彫琢され磨き上げられた作品ではなく、久保の石との自然との密やかなダイアローグを聴いているからに違いない。
「あさご芸術の森大賞展」(朝来市)の終了を受け、昨年スタートした第1回「あさごアートコンペティション(A・A・C)」を受賞されました。 島田誠