版画家・平塚運一(1895-1997)は、著作の中で次のように言っています。
「木版画を美術的価値からみて、複製版画と創作版画とに分ける。複製版画はいうまでもなく、一つの原画を、そっくり木版の職人の手によって作ったものであって、創作版画は美術家自ら小刀をとり、刷毛とバレンによって作りあげた版画である。」「ここではスケッチは原画ではなくって、その版画を作るための道程にすぎないのである。つまり摺(す)りあげたそのものが目的の絵であって、スケッチとは全く別な風格の絵になっているのである。すなわちスケッチはあってもそれは原画ではない。それだからこそ美術的な香りの高い作品となるのである。」
明治末期、雑誌『方寸』を中心として、浮世絵版画とは異なる、近代の意識に基づいた創作版画が盛んになります。続く大正期には様々な個性を持った版画家たちが活躍をし、洋画家や日本画家も創作版画の制作に携わります。
1927(昭和2)年、帝展で版画が受理されるようになりますが、小野竹喬たちが設立した国画創作協会の展覧会では、これに先駆けて版画の出品を受け付けていました。創作版画に携わる人々のうちに見られる個性の表出への意識や、高い芸術性への志向が、自分たちと共通していると感じられたためではないでしょうか。
戦後には、木版画の斎藤清(1907-1997)らが国際展に入選して衆目を集め、また、ヨーロッパが発祥である銅版画においても、深沢幸雄(1924-)などが独学で技法を身につけて現在でも制作を続けています。版画ならではの表現とその魅力を、それぞれの作品が作られた時代の雰囲気とあわせてお楽しみ下さい。