1930(昭和5)年、岩手県水沢(現、奥州市)に生まれた大宮政郎は、60年代初めに盛岡で結成し先鋭的な美術グループ「集団N39」の先導的メンバーとして、岩手の美術シーンに確かな一歩を印すとともに、運動体としての前衛美術を地方から発信し続けました。1968年、モスクワに向かう機内で数時間にわたって沈まない夕焼けを眺めた彼は、「人が動きながら、又は、移動しながら自らスピードをもって物を見、考えたなら、芸術はどの様に変わるか…」という新しい造形的発想が思い浮かびます。それはまもなく「人動説アート」となって、動的視点による新たな造形活動が展開されることになります。
速度が高まれば物体や空間は短縮し、質量が増大するという特殊相対性理論と、現代社会の加速する時空とを相乗的に解釈した大宮は、移動する視点は対象を細長く写しだすと言います。それらは独特な縦長の形態へと思索と実験が重ねられ、「人動説」は深化を続け、綿版画や形のないものを具現化する彫刻やオブジェなど、独自の視点から現代美術へ斬新なアプローチを試みてきました。
82歳を迎えてなお、少年のような好奇心でマグマのようにエネルギーを噴出続ける大宮は、「有りもしないものを有るように見せるのが21世紀の絵画」という、新たな絵画思考を展開し、内なるイメージが画面いっぱいに展開するドローイング「無有描写シリーズ」に取り組んでいます。
本展覧会は、岩手のみならず日本を代表するアーティスト大宮政郎の最新作「無有描写シリーズ」をはじめ、これまでオリジナリティー溢れる造形作品を生みだしてきた彼の60年にわたる表現世界の全貌を紹介するものです。