諸橋近代美術館は、今年で開館15年目を迎えます。この節目となる年に‘芸術は爆発だ’で知られる岡本太郎(1911-1996)の企画展を開催します。本展では、世界最大の岡本太郎常設美術館である川崎市岡本太郎美術館所蔵による絵画、版画、写真、彫刻、62点をとおして人間と文明の関係を再考します。
岡本太郎は、当館の常設作家サルバドール・ダリから日本人作家として唯一高い評価を受けました。太郎とダリとの直接的接触や相互間の影響は特段ありませんが、作品制作以外での、信念を押し通した言動、メディアを通しての痛快なパフォーマンスなど、二人には表現者として相通じるものがあります。文明の発達が急加速した20世紀において、人間の存在を純粋に、そして大胆に表現した岡本太郎とダリ。ダリ常設美術館で岡本太郎の世界を展開することは、東洋と西洋との相違を再考することは勿論、時代と地域を越えた人間の根源や可能性を検証することにおいても画期的な試みと考えます。
本展では、太郎の初期から熟年期にわたる幅広い表現による作品が出品となります。機械社会と人間不在を描いた《重工業》は、社会主義的なリアリズム絵画であると同時に、工業(歯車)と農業(ネギ)、抽象と具象など相対するものを同一に表現し岡本太郎が唱えた「対局主義」が実践された1点です。
写真作品では、太郎が日本人の原始的な逞さや美を感じた縄文土器、精神を解放して己を取り戻す地方の祭りや風俗を紹介します。岡本太郎の代名詞ともいえる《太陽の塔》では、日本万国博覧会のテーマ‘人類の進歩と調和’に真っ向と反対した作家の熱い想いを展開します。そして晩年の作品となる、書と絵が融合した躍動感溢れるドローイングからは太郎が探究した生命の歓喜が感じられます。
「真の芸術は、きれいであってあってはならない。」岡本太郎の言葉には人間の本質を芸術で取り戻すという気概があります。閉塞感が蔓延する今こそ‘人間の強かな生命力‘人間が持つ無限の可能性’を感受し、新たな自己発見をして頂きたいと思います。