戦後を代表するイラストレーター・宇野亜喜良の全貌に迫る大規模な個展を2010年に開催した刈谷市美術館では、好評を博したこの企画展をきっかけにして、多くの作品を収蔵しました。そこで今回の常設展では、グラフィック・デザインから雑誌や新聞の挿絵、絵本、装丁、舞台美術に至るまで、多彩なジャンルで活躍する宇野の仕事のなかで出発点ともいえ、現在まで手がけ続けているポスターの仕事に焦点をあてた特集展示をおこないます。
1934年に名古屋市に生まれた宇野亜喜良は、小学生の頃から絵を学びはじめ、油絵具を活かしたポスターが入選するなど、早くから絵やデザインの才能を発揮させました。現:名古屋市立工芸高等学校在学中からデザインコンペで入選を重ね、19歳でグラフックデザイナーの登竜門とされる日宣美展に初入選します。1955年に21歳で上京すると、カルピス食品工業を経て、旭化成やトヨタ自動車などの企業広告を手がけるようになり、1961年には日宣美展の会員賞を受賞。高度経済成長を背景に日本のデザイン界が活況を呈するなか、鬼才の新人として活躍していきます。その後も、企業や商品広告のほか、寺山修司の天井桟敷に代表される前衛劇団のポスター、クラブなどの店舗、映画、音楽といった様々なポスターを次々と手がけていき、一躍時代の寵児となりました。
本展は、日宣美の受賞作やアングラ演劇のポスターといった代表作はもちろん、2010年の企画展では数点しか紹介することのできなかった近年の演劇や舞台関係のポスターなどを充実させた内容で構成し、1950年代末から2012年までに制作された約60点のポスターに加え、その原画も一部紹介します。また、蛍光塗料が使用された1960年代のポスターには特殊なライトを照射し、発光させて展示します。繊細な描線から生まれる物憂げな瞳の少女。あるいは、都会の熱狂や独特なエロティシズムを宿した女性像など、耽美で幻想的な雰囲気を醸し出すAQUIRAX(アキラックス)の特異なイラストレーションの世界を、展示室の壁面いっぱいに展示された数々のポスターをとおしてご鑑賞ください。