石川ヨシ子は“花の画家”です。咲きかけの、満開の、散りぎわの美しさを描ききる“花の画家”は、花の生々流転を「人の一生を見る思い」と、たとえています。
当時、外交官だった父の鹿島守之助氏の任地ローマに生まれた石川ヨシ子は、両親の持ち帰ったイタリア美術の画集を眺めながら幼少期を過ごしました。
7歳のときから油彩画家の指導を受け、日本女子大学で西洋美術史を専攻しながら、絵を描き続けました。早くから花をモチーフに選び、“花の一生”の主題は、その後の画業を貫いています。
石川絵画では、油彩画の写実性が日本画に特有のかすれやにじみの技法と溶け合い、余白には気韻生動の趣が横溢します。花とともに、花を包む大気が、雨、風など天然の事象が描かれ、花に心象が託されます。澄明な色彩でフォルムを抽象風に大胆に処理しながら、満開の桜が雨に煙って桜色の色面と化して、夜桜が艶然たる風情を湛えます。無情の嵐に翻弄される桜吹雪は、ほとんど抽象的な心象絵画の域に迫るものです。
1996年には、播州の名刹、姫路市の亀山本徳寺に、5年の歳月をかけて完成した天井画が進納されました。杉板85面に57種の花々が咲き乱れる格天井画は、“花の画家”にとっての“曼荼羅”ともいうべき集大成でした。そして、近年の金箔を駆使した屏風絵には、油彩画の写実性と日本画の装飾性との調和が遺憾なく発揮されています。2000年秋、フィレンツェ市の主催により市内のヴェッキオ宮殿内「武器の間」を会場に、石川ヨシ子の「華」展が開催され、高い評価を得ました。
今回の箱根展は、その帰国展で、1980年代以降の作品を中心に最新作を加えた51点から構成されており、石川絵画の全貌を網羅するものです。
箱根が早春の気配から桜の季節へと移ろうころ、石川ヨシ子の“花の曼荼羅”世界をご堪能ください。