「こんなにいきて きまりがわるい」が口癖だったという小林猶治郎(こばやし・なおじろう:1897-1990年)。25歳までと余命を宣告されながらも、医師の言葉に反して93歳まで絵を描き続けました。飄々と画家人生を歩んだ猶治郎を紹介する公立美術館における没後初の回顧展です。
猶治郎は東京の下町・墨東向島で少年時代を過ごします。肺を病み1918年に慶応義塾大学を中退してからは、残りの人生は好きな絵を描いて過ごそうと、葵橋洋画研究所や日本美術学校洋画科で学びなおします。1927年第8回帝展に《なぎさ》が初入選。牧野虎雄に師事し、槐樹社展ならびに旺玄会展を中心に発表しました。
伸びのある力強い筆触で描かれた初期作から、造形的な実験と静謐な詩情を感じさせる《作品15(印象)》、そして「油彩日本画」と称した俳味を感じさせる晩年の作まで約80点を一堂に展覧します。また子どもたちのまぶしい感性を受けとめた《童心双六》のような作品からは、生涯を通して子どもを愛した猶治郎の人柄をうかがう事ができるでしょう。
本展は猶治郎の没後、画室に残された作品を調査し、修復作業を経て展示するものです。猶治郎が語る「超然孤独の風流遊戯」の全貌を明らかにします。