碧南出身の美術工芸家・藤井達吉はその晩年に多くの水墨画を描いています。本阿弥光悦に私淑し、装飾的な絵画、工芸作品を多く生み出した藤井ですが、墨一色による精神性溢れる表現をもまた好んだのです。
このたび碧南市藤井達吉現代美術館では、水墨作品を中心としたコレクションが全国的にも良く知られている富山県水墨美術館の全面的なご協力のもと、藤井の活躍した近現代の水墨画を取り上げる展覧会「富山県水墨美術館名品展 墨色の輝き」を開催する運びとなりました。
墨を主体として描かれる水墨画は、鎌倉時代に中国から伝わります。わが国では色彩を主とする大和絵と影響し合いながら独自の展開を遂げ、室町、安土桃山、江戸と各時代を通じて日本絵画史の重要な位置を占めてきました。近代に入ると西洋文化の急激な流入を受け一時混乱を見せますが、ある者は西洋美術の要素を取り入れ、ある者は東洋由来の精神性に立ち返るなど、様々なかたちで新たな水墨表現を展開させていきました。そして現在においてもまた墨による濃淡、ぼかし、滲み等によって表される独特な世界は、私たちに鮮やかな色彩による表現とは異なる魅力を感じさせてくれます。
本展では、水墨美術館所蔵の作品に当館所蔵の藤井達吉作品を加えた30作家34作品を展示し、近代から現代に至る水墨表現をご紹介します。画面に描き出された墨色の輝きを、どうぞお楽しみください。