「擦る」「張る」「破る」「刷る」という五感を総動員するデザイン思考は、テセウスの際立った特長である。一つ一つの行為の執拗なまでの反復は、身体に予期せぬ波動と混乱を巻き起こす。それは、理性の範疇を軽々と越えて別の次元に移行し、異なる価値を生みだすのかもしれない。近代デザインの合理的思考を大きく逸脱した、未知の領域へのチャレンジと捉えることもできる。「雑誌づくりは恐ろしいのと同時に刺激に満ちている。」と言うテセウスの哲学は、まさに「創造と破壊」なのである。書物が仕掛ける不思議な迷宮を旅する悦楽は、みるものの五感を刺激してやまない。これからも、彼の目指す「不完全な美」は益々柔軟に進化を遂げることになるだろう。田名網敬一