佐藤忠良は1912(明治45)年7月4日に宮城県で生まれ、2011年3月30日に東京都杉並区のアトリエで98年の生涯を閉じました。一周忌となる2012年は、生誕100年の年でもあり、この機に佐藤忠良の創作活動を再検証する展覧会を開催いたします。学生時代から、ひたすら人間像ばかりをつくり続けてきた佐藤の制作の基本は、リアリズム(=写実)です。この彫刻家は、“生きている人間のかたち”すなわち人間という思考する生命体のリアリティを追究し続けてきたと言ってよいでしょう。
戦後、抽象美術の台頭とともに、それまでの写実彫刻は、具象彫刻と呼ばれるようになり、写実の概念も拡がります。佐藤の創作は、こうした具象表現の歩みと重なりますが、独自のスタイルを確立する過程を、「写実主義」という観点から振り返ってみます。リアリズムには、もうひとつ「現実主義」という訳語もあります。佐藤は、市井の労働者をモデルにした頭像作品など社会的テーマを扱い、また絵本や美術教科書の編集にも関わり、現実社会に向けた表現活動を実践してきました。社会と美術、社会と美術家という問題について、多様な作品群を通して、この彫刻家の芸術観と社会観にも迫ります。
〈群馬の人〉や〈帽子・夏〉など各時代の彫刻の代表作を網羅するとともに、戦前からの絵本や、表紙絵や挿絵を担当した戦後の雑誌などの出版物、依頼によって制作したトロフィーやメダル、肖像彫刻の石膏原型など、これまで紹介されることのなかった作品や資料によって構成されます。