ヴィクトリア朝時代に詩人、工芸デザイナーとして名を馳せたウィリアム・モリス(William Morris, 1843-96)は、晩年になって「ささやかな印刷術の冒険」に乗り出しました。モリスの願いは、書物というものが、美しい活字で美しい紙に印刷され、美しい装丁で製本されうるのを証明することであり、ハマースミスに私家版印刷工房「ケルムスコット・プレス(Kelmscott Press, 1891-98)」を創設して、『ジェフリー・チョーサー作品集成』を頂点とする全53書目、66冊の美しい書物を刊行しました。
本学図書館では、ケルムスコット・プレスより刊行された全書目を所蔵しており、今回の展示では、その中から4書目、また、「美しい書物造り」への情熱においてケルムスコット・プレス刊本と何らかのつながりを有する、19世紀末の絵入芸術雑誌6書目をあわせて展示いたします。
理想の本造りを目指して、ケルムスコット・プレスの出現を大いに刺激した『センチュリー・ギルド・ホビー・ホース(Century Guild Hobby Horse, 1884, 1886-92)』をはじめ、ケルムスコット・プレス刊本を優れた手本として、タイポグラフィーはもとより装飾図案やイラストレーションから装丁にいたるまでの全体デザインに力を入れている『パン(Pan, 1895-1900)』や『ウェール・サクルム(Ver Sacrum, 1898-1903)』、オーブリ・ビアズリー(Aubrey Beardsley, 1872-98)が挿画や表紙デザインを手掛けた『イエロー・ブック』、『サヴォイ』など、モリスのケルムスコット・プレスを仰ぎながら19世紀末の印刷芸術再興の運動を盛り上げた絵入芸術雑誌の数々をお楽しみください。