写真家 志賀理江子が宮城県を訪れてから6年が経過しました。
この展覧会は、自らの生活環境や経験と写真表現を一体にしようと探求してきた志賀の現時点での成果を提示するものです。
1980年生まれの志賀は、快適に整えられ自動化された日々の生活と社会に身体的な違和感を感じるところから表現を始めました。国内外で活動しながら、2006年の当館の企画展参加を契機に初めて宮城県を訪れました。
その後も志賀は、密接な土地との関係を求めて何度も東北に戻ってきました。そして、太平洋に面した北釜の松林と出会ったのです。
志賀は北釜で暮らしながら、地域のカメラマンとして祭りなどの公式行事を記録し、オーラルヒストリー(口述史)の作成を行いました。それらの経験は作品制作に大きく影響していきます。
志賀は写真が自らの身体とかけ離れないように、北釜の空気をいっぱいまで吸い込み、静かに長く吐き出すようにして一つずつの作品を制作してきました。
それは、北釜の固有性や独自性を観念的に表すことではなく、北釜の土地と関係した身体の痕跡を写し出そうとすることでした。
ですから、その作品には北釜を物語る作者の回答ではなく、写真というメディアとは何か、土地とともにある暮らしと表現とは何かについて、志賀が自問し追求してきた大きな問いそのものが現れています。
それらは多くの困難を抱えながらある現在の私たちの社会に切実な声として届くことでしょう。
せんだいメディアテークの6階ギャラリーに展開した約200点の作品をとおして、生の希望へと繋がる想像の力を発見いただければ幸いです。