京都国立近代美術館と東京国立近代美術館フィルムセンター(NFC)は、2009年夏に、NFCが所蔵する映画ポスターを用いた「無声時代ソビエト映画ポスター」展を共催しました。二度目の共催となる本展では、1930年代から1980年代に日本で製作された映画ポスターを採りあげます。
映画作品の宣伝メディアとして、劇場や街角に貼られた映画ポスターは、その多くが製作・配給会社のコントロールのもとで匿名的に作られてきました。しかし歴史を遡って見てみれば、その枠に収まらず、自立したグラフィック作品としての価値を主張するポスターも存在します。
モダニズム文化華やかかりし1930年代の松竹映画で活躍した河野鷹思や、ヨーロッパ映画の芳醇なポスターで一時代を築いた野口久光のほか、戦後には挿絵画家岩田専太郎も日本映画ポスターに鮮やかな女性像を描くなど、映画黄金期にはさまざまな才能が映画界と交差しました。また日本アート・シアター・ギルド(ATG)の登場した1960年代には、映画芸術の革新の動きに並走するかのように若手デザイナーが起用され、さらに映画・美術・文学・演劇などのジャンルが密接に絡まり合う中で、粟津潔・横尾忠則・和田誠といった新世代のアーティストが登場し、旧来の映画ポスターのスタイルを変容させます。
1960年代を中心に約80点のポスターで構成される本展では、このような映画とグラフィズムとの結節点を探り、スクリーンの外側に花開いた映画芸術のもうひとつの“顔”というべきものを探ります。