「名所江戸百景」は名所絵師・歌川広重の最晩年の代表作です。版行が始まったのは安政三(1856)年。前年の安政二年には安政の大地震が起こり、江戸の街は甚大な被害を受けました。そのような中で広重は、自身が亡くなる安政五年まで版行を続け、最終的には一二〇枚にもおよぶ生涯最大の揃物となりました。「これぞ江戸!」と言わんばかりに江戸っ子の愛する街のさまざまな風景を、四季折々の行事や美しい自然とともに描いた本揃物は、町の復興を目指す人々を応援する意味もあったのかもしれません。
本揃物は、広重が晩年に得意とした縦長の画面を活かした構図であり、近景に大きくモチーフを配することで極端な遠近感を生みだす「近景拡大構図」が多用されています。特に花鳥画を得意とした広重らしく、近景のモチーフには花や鳥など動植物が描かれ、まさに広重の集大成ともいえる作品です。後にゴッホやモネなど遠く西洋の人々にも高い評価を得て"ジャポニスム"の原動力ともなりました。
本展では「名所江戸百景」を中心に、浮世絵に描かれた江戸時代の秋と冬の風景をご紹介します。一五〇年以上経た現代でも、なお見る者を惹きつけてやまない広重の作品の数々をぜひお楽しみください。なお、小展示室では前期に広重の花鳥画を、後期には「忠臣蔵」を展示いたします。