福岡県筑豊地方は明治以降、石炭産業によって発展し、日本の近代化を支えました。各地から多くの人々が集まり、富山県に生まれた千田梅二(1920-1997)と熊本県に生まれたうえだひろし(1933-2011)も、故郷より遠く離れた福岡県水巻町の日本炭礦高松炭鉱(日炭高松)に職を求めて採炭夫となります。そこで後に記録文学作家として知られる上野英信と出会い、ともに炭鉱労働者によるサークル誌に掲載する挿絵の制作を依頼されたことがきっかけで木版画を始めます。二人は労働のかたわらで、炭鉱風景や労働者の姿を力強く描き出しました。
やがて炭鉱を離れた後も、千田は型絵染という技法による制作、うえだは多色刷りによる作品を手がけるなど、独自の画風を確立する一方で、童話や民話を題材とするなど、数々の作品を生み出しました。本展では炭鉱をモチーフにした作品に加え、千田の「イソップ寓話」シリーズや「聖書」シリーズ、うえだの「日本の民話」シリーズをご紹介します。二人が見つめた炭鉱やそこで生きる人々へ向けた眼差しと、物語の世界に託した思いをお楽しみください。
また、同じく筑豊の炭鉱を見つめ続け、千田、うえだとも交流の深かった山本作兵衛の炭鉱記録画もあわせて展示します。