絵の調査員によれば、世界のすべての人びとにとって、自分の行いを弁護し未来を予言する絵…<自分の絵=弁明の絵画>と呼べるような作品が必ず一点は存在するという。調査員もまた<弁明の絵画>を探す旅を続けてきたが、その過程で得た副産物として、この世界には全く同じ絵が存在しないという当然の事実もあった。その同一性は、あの物理的ミクロ世界についてのものではなく、調査員の仕事であるきわめて人間的な<中ぐらい>の世界に限定したものに限られている。つまり、サイズではそのほとんどが1~100程度の範囲におさまる、さまざまな色、形、質、組み合わせ等々については同一の作品はないというものである。それら無限の数の絵を調査してゆくことが調査員の仕事であるが、その報告によれば、現在のところ<弁明の絵画>の欄には、可能性として3点の絵が記載された後に消された痕跡がある。絵の調査員には、長い間気になりつつあえて遠ざかってきた画家がいる。小林正人である。20年以上前に若干25歳の作品を所蔵しながら、調査員は小林正人に悩み続けた。その原因を要約すれば、それが<弁明の絵画>であるのかどうか、という判断の遅延である。20数年を経て今回の展覧会への出品が決まったが、展覧会が始まった後も調査員の悩みは続くかもしれない。あるいは<弁明の絵画>を巡る旅は、これで終わるのかもしれない。