映画「借りぐらしのアリエッティ」で、主人公のこびとアリエッティが暮らしていたドールズハウス。建物や部屋を縮小し、ある時代の生活空間を正確に再現したドールズハウスは、西洋で生まれたすばらしい美術工芸品です。日本では室町時代にあたる16世紀半ば、ドイツの貴族が娘のために作らせたという古い記録が残されています。
玩具といっても、たとえばミニチュアの家具は、家具職人自らがその技を傾けて手がけ、高品質のものが提供された結果、ドールズハウスは見る人を驚嘆させる精巧さをもつ、美術工芸品の域に高められました。当時のドールズハウスは、屋敷一軒と同じほどの値がつく高価なもので、その所有は上流階級が中心でした。近代の工業化に伴い、より多くの人が収集や制作また鑑賞の対象として、さまざまに楽しめるようになり、日本でも1980年代以降、愛好者の広がりを見せています。
この展覧会では、かつて英米の二大プライベート・コレクションであった、イギリスのヴィヴィアン・グリーン・コレクションとアメリカのモッツ・ミニチュア・コレクションから、歴史的・芸術的に貴重なドールズハウスが展示されます。グリーン夫人が所有していた「ハスケル・ハウス」という18世紀後半作のアンティークの名品、またモッツ家の人々が、自分たちの住居を再現した「デモイン・バンガロー」は、家を四方向から覗き込める珍しいタイプで、1932年当時の豊かなアメリカの暮らしが、今にいきいきと伝えられています。この他にも、文豪トマス・ハーディの家や、ピーターラビットの作者ベアトリクス・ポターが住んだヒルトップ・ハウスなど、現在の優れたドールズハウス作家の作品を目にする貴重な機会ともなります。また日本版ドールズハウスと言える、「御殿飾り」という建物が最上段にある珍しい尾張地方の雛飾りを、特別展示いたします。
階上や部屋を超えて、生活空間全体を見渡せるドールズハウスは、実際には決して目にすることができない光景です。その非現実的ながらリアルな空間は、部屋を覗きこむ時、置かれた調度品が精巧であるほど、見る人の心を夢見心地にさせる不思議な迫力をもちます。また家の再現にあたっては厳密な時代考証がなされるため、そこでの暮らしを、人間が築いてきた豊かな営みの物語として、次世代に伝える文化財の役割も担っています。見て・学び・愉しみ・遊べる、魅惑のドールズハウスの数々を、ぜひこの展覧会でご覧ください。