中村研一記念小金井市立はけの森美術館では開館以来、他地域の美術館が持つ1作家または1技法の作品から成るコレクションに注目した企画展を開催してきました。今回はこれまでより枠を拡げ、石川県立美術館が所蔵する近代洋画作品から、当館の中心的な所蔵作家である中村研一(1895―1967)とその多様な交友関係を取り上げます。
中村は、若い頃から親族や友人を介して石川県出身の政財界人、文化人らの知遇を得ており、肖像画を描くこともありました。そして1950年代に入る頃から晩年近くまで、頻繁に北陸地方を訪れています。金沢には戦前より中村から指導を受けていた高光一也(1907―1986)がおり、彼をはじめとする地元の画家たちとの交流や、初代徳田八十吉の窯で九谷焼の絵付を学び制作を行っていたことが知られています。
一方、金沢をはじめ北陸の美術界では、戦後間もなくから団体展への出品が増えて全国レベルの活動を目指す機運が高まっていました。そこで、中村と同じように美術団体で中心的な存在であった画家たちが、美術学校や美術団体での指導のために招かれます。石川県出身で東京に拠点を移し活躍していた宮本三郎(1905―1974)らの存在も、故郷の洋画界への刺激になりました。中村はこうした画家たちとも様々な縁でつながり、親しくしていました。
本展では、石川県立美術館が所蔵する中村研一作品の全てと、同時代に活躍した洋画家たちの作品計30点を展示し、一人の画家とある地域の関わりを糸口として引き出された昭和洋画史の一断面をご紹介します。