彫刻家、棚田康司は、これまで一貫して「人間」を、そして「少年少女」を彫り続けてきました。棚田の約20年に亘る制作活動の中でも、とりわけ重要なモチーフとして存在し続けているのは「少年少女」です。それは、すでに子供ではないけれど、まだ大人でもない少年少女のように、あいまいな境界線に漂う存在が棚田の制作テーマであるためです。不安定さや繊細さ、そして危うさを秘めた彼らは、我々が気づいていない人間としての本質的な部分を露わにした存在とも言えるかもしれません。モチーフは変わらずとも、少年少女の形態は作品ごとに変化を帯びています。それは木という自然物を材料としているためでもありますが、加えて棚田の彼らを捉える視点の変化によるものです。
「棚田康司―たちのぼる。」展と題した本展は、棚田にとって東京の美術館における初の個展となります。大学院修了作品から新作まで、また制作過程のスケッチなども含め、棚田の一連の作品群を網羅します。
また、「たちのぼる。」という言葉は、煙のイメージから湧き出たものです。それは新作のタイトルに由来するものでありますが、煙のようにゆらゆらと揺れながら、天空へ昇っていく少年に、あらゆる試練に遭遇しつつも、ひとりの人間として上昇するイメージ、また上昇して欲しいという思いが集約されています。本展を通して、棚田の作品世界に触れて頂くと同時に、現代美術における木彫の一側面を捉える機会となりましたら幸いです。