デッサン力を土台とした華麗な色彩あふれる作品を描いた油彩画家・宮本三郎(1905-1974、小松市出身)。戦前は安井曾太郎に師事し、二科会に所属。また菊池寛、獅子文六らの小説に挿絵や装丁を手掛けています。しかし宮本の名を広く国民に知らしめたのは太平洋戦争中に従軍画家として、シンガポールでの日本軍と英軍との停戦会談の場面である戦争記録画「山下・パーシバル両司令官会見図」(東京国立近代美術館蔵・無期限貸与)を描いたことであったと言えるかも知れません。
宮本は1940年、42年、43年と3度従軍。記録画制作の為の取材を重ねる中で、宮本は何を見つめたのでしょうか。2度目の従軍から帰国後、刊行準備を進めた初の著書『宮本三郎南方従軍画集』に一つの答えを見出すことができます。戦場でのスケッチと共に幼少時の故郷・小松の情景や思い出、画家を志した経緯などを綴ったもので、掲載にあたっては宮本の強い思いがあったものと推察できます。
会見図が描かれて今年で70年。本展では戦争について改めて考える機会とすると共に従軍画集に焦点をあて、戦争記録画や戦後故郷で描かれた作品、更には戦場から家族宛に送られた手紙などを通して、大戦当時の宮本の眼差しの先に存在したもの、その想いに迫ります。