「一楽(いちらく)、二萩(にはぎ)、三唐津(さんからつ)」と謳(うた)われ、侘数寄(わびすき)に適(かな)う茶の湯の具足(ぐそく)として、高い声価を得てきた萩焼の茶碗。
高麗茶碗(こうらいちゃわん)を生みだした朝鮮半島由来の作陶技術を伝え、江戸時代を通して、萩藩御用窯(ごようがま)で製作された萩焼の精品は、藩主の御遣物(おつかいもの)として諸侯への進物(しんもつ)や家臣への下賜(かし)に用いられるなど、限られた階層とその周辺に流通しました。
とくに、その主力器種である茶碗は、領内で採れる特定の土や釉の素材感を前面に押し出しながら、茶の湯における美意識の深化や流行など、折々に重視された使い手たちの趣味性を意識的にかたちへと編んでつくられてきました。当代の数寄者に好まれ続けたこのような萩焼の茶碗のあり方が、桃山(ももやま)時代以来の侘(わ)びた風情を濃密に伝承する茶陶という、「古萩(こはぎ)」イメージの形成に強く作用したとおもわれます。
本展では、御用窯を中心に製作された江戸時代の萩焼を「古萩」ととらえ、多様性に富んだその豊かな美意識を、伝世の茶碗や巧(たく)みをこらした細工物(さいくもの)などで紹介します。