竹喬は、生涯にわたって、季節感にあふれる日本の自然を題材とした作品を描いています。それらは、古くから描かれてきた理想郷を求める想像の山水画(さんすいが)とは異なり、実際に目の前に広がる景色から受けた感動に基づいていて、叙情を誘う狙いや、自らの思想や心情を仮託する意図もほとんど見られません。まさに自然そのものを描こうとしています。
その制作は、美しい風景をただ写すことに終始せず、物象の奥に感知される大自然の絶対的な力や秩序、まるで「神様みたい」に思われる自然を表出することを目指しています。感動のままに、即興的に描くことができない日本画の素材(紙や絹、岩絵具(いわえのぐ)など)を、青年期には足かせのようにも感じていましたが、さまざまな模索を経たのちに、「どういうふうにそれ(自然)を表現したらいいかということが、わりに具体的に素材との関連をもちながら心のなかで養われていく」ようになったといいます。
晩年、「日本画の素材を生かして、日本画らしい作品を描く」ことこそ自らの体質にあうと考えるに至った竹喬は、「日本人の美」とは「風景の中に自ら溶けこんで自然と一体となって描く」境地だと述べています。その作品のうちに表れている、自然との深い交感のあとや制作に際しての素材との対話のあとを、来館者の皆様に愛されてきた代表作の中に改めて見つけていただけましたら幸いです。