「幻想の美術」展を開催いたします。
美術作品では、人間の心の中に浮かんだ幻想的なイメージが、想像力ゆたかに表現されることがあります。神や悪魔が登場し、現実にはありえないような出来事が起こる、この世ならざる世界が、古くより作品の中でさまざまに表現されてきました。
宗教的な主題はもちろん、神話や伝説、あるいは想像力をかき立てる幻想的な文学の世界も、美術作家たちに異世界への扉を開かせます。視覚化された異世界は、それが現実ではないと分かっていたとしても、見る者の知覚を揺るがし、やがて彼岸へと引き込んでいきます。
同時に美術作品として目に見える形で表された世界は、人間の内面世界を知る手がかりともなります。その関心から、作品のなかで、現実を超えた無意識の世界を表現しようとする試みも行われました。
興味深いのは、幻想の世界を描き出す表現方法として、版画や素描といった技法が非常に効果的であることです。白と黒だけの抑制された色彩、線描を主体とした即興的な描写、あるいは版の介在によって生まれる偶発的なイメージは、見る者に判断をゆだねる部分が多いゆえに、その想像力を一層喚起するようです。
本展では、19世紀から20世紀にかけて生まれた、ヨーロッパと日本の幻想的な絵画作品を、版画と素描を中心に紹介します。紙の上に広がる幻想的な世界をどうぞお楽しみください。