木下晋(1947年~富山市生まれ)は、16歳の時に最年少で自由美術協会に入選した後、画家の麻生三郎や美術評論家の溝口修造らと出会い影響を受けます。1981年に渡米し、ここで作品のオリジナリティの重要性を痛感した木下は、鉛筆によるモノクロームの新たな表現方法に取り組みました。従来、習作として扱われる鉛筆画の可能性を拡げ、本画(タブロー)に匹敵する表現力を追求したのです。こうして、10Hから10Bの鉛筆を駆使することにより、他に類例をみない独自のリアリズム絵画がうまれました。最後の瞽女と言われた小林ハルや、谷崎潤一郎『痴人の愛』のモデル和嶋せい、元ハンセン患者の詩人桜井哲夫、また自身の母などをモデルとして作品を発表し、モノクロームの光と影による圧倒的な表現で現代絵画に新たな領域を確立することになります。
今回の展覧会では、これまでの代表作に加え、永年温めてきたテーマである「合掌図」の新作を展示いたします。これは、このたびの東日本大震災を目の当たりにしたことが直接の制作の動機となっています。時代、国籍を超え、人間のもっとも根源的な祈りの姿である「合掌」を改めて作品とすることで、自身が追い求めてきたもの、さらには現代の絵画が持つ可能性を検証しようとするものです。